水より冷たく炎より熱く
















痛みを訴える喉を何とか宥め、元閥は一つ、小さな溜息を吐いた。
咳き込むたびにズキズキと刺すような痛みを訴える喉に、元閥は冷えた冷たい水を通してやる。
だがそれでも痛む喉は、更に陰気にさせた。











【水より冷たく炎より熱く】










「元閥、体調はどうだ」



ガラと慎重な音を立てて部屋に足を踏み入れたアビは、未だ頬を赤くさせている元閥の姿を認め、眉根を顰めた。
無言のまま彼が横たわっている布団に膝を付き、汗で張り付いた髪を丁寧に剥がしてやる。
そのまま額に手を当てれば、アビはこれ以上ないほどまでに苦い顔を浮かべた。
今朝から全く引かない熱に、憎しみを覚える。
熱のせいで潤んだ瞳で見つけられ、正直に言ったら理性が飛びそうだ。それでも、我慢する。
我慢しなければいけないと本能で理解しているからだ。
元閥は乾燥した唇を微かに動かし、アビの名を紡いだ。



「ん?何だ?」
「みず…欲しい…」



熱い息が、アビの耳朶を擽った。
アビはそんな艶かしい姿を晒す元閥から目を背け、枕元に用意しておいた水差しを手探りで取る。
完全に弛緩している元閥の体を抱きかかえ、口元に水差しの先を差し出してやった。
だが元閥は嫌々と力なく首を横に振り、キュゥッとアビの衣を握り締める。
まるで幼子のような駄々に、アビは困ったように笑みを浮かべた。



「まったく…俺に風邪を移す気か」
「…アビ、早く」



アビは諦めた様に水差しの水を己の口に含み、乾燥した唇に己のそれを重ねた。
開いた隙間から水を送れば、元閥の喉が小さく鳴ったことがよく分かる。
全て飲みきったのは明白なのに、それでも元閥は力の抜けた腕でアビの頭を抱き、離すまいと唇を押し当ててきた。
一瞬躊躇したアビだったが、時折漏れてくる小さな声に、細く強い理性の糸が、音を立てて切れた。
ほとんど噛み付くように接吻けを続けたアビは、熱で熱くなっている体を、荒々しく敷物に横たえた。
















* * *















「っ…元閥、まさか、これが目的だったんじゃっ…ゴホッ」
「ふふっ、さぁてね?」



数日後、元閥の体調はすっかり良くなった。
―――が、代わりにアビの体調が最低になるのだ。
あの時の交合が原因だと、アビも脳内でははっきりと理解していた。
ジトと憎らしそうな瞳で元閥を見据えたアビは、盛大に咳き込んだ。



「ま、安心しな。―――今度は、儂が気持ちよくさせてやるからな?」



そういう意味じゃないだろと、アビは痛む喉に眉を顰めた。
















【終】