献花ノ夜に
本当は、もしかしたら。
貴方は誰よりも泣いていたのかもしれないと、今はそう思う。
誰よりも弱くて。
誰よりも寂しがりやだから。
だから仮面という虚勢を被り。
だから貴方は。
【献花ノ夜に】
優しかった姿しか、思い出せなかった。
本当はもっとたくさん辛い思いを強いられていたはずなのに、瞼裏には貴方の笑
顔しか浮かばなかった。
水面を揺らした断末魔は、安らかな歓声にも聞こえる。
ぷか、と浮かんできた紅の仮面を手に取り、そっと懐に仕舞う。
―――本望でしたか?
否。それが、貴方の返答だと思う。
貴方の仮面は喜怒哀楽を映さず、まるでそれは割れた鏡。
歪んだものを映すそれは、貴方の心まで歪めてしまった。
幼い頃、頭を撫でてくれた優しい貴方。
悪夢に泣けば、抱きしめてくれた優しい貴方。
時たまくださる接吻けが、優しかった。
どれだけ冷酷を仮面に映したとて、知っておりました。
貴方は、優しいお方だった。
「朱松、様」
お慕いしておりました。誰よりも、誰よりも。
師として、人として。いいやそれ以上に。
滴が、水面を揺らす。
波紋が、心を染める。
――涙が、
「愛しかったんです、本当に」
恨み、泣き、果てた優しい貴方へ。
大丈夫。お側におります。
貴方の偽りと、共に。
だからどうか安らかな眠りを。
もう貴方を妨げるものはございません。
そして、どうかこの波紋が。
貴方への献花となれるように。
【終】