「もう一発!!」

女の形をした男がそう怒鳴ると、手にしていた大筒から轟音が飛び出した。



【ちょっと気になる真実】



往壓が奇士になると宣言してから約一刻後。往壓はふいに何かを思いだしたように隣で汁を啜っていた宰蔵に話しかけた。

「なぁ」
「なんだ」
「…アイツらなんだが」

小声で言い、往壓はこれまた小さく――楽しそうに談笑している江戸元閥とアビを指差した。

「? 江戸元とアビがどうかしたか?」
「いや…アイツらは仲がいいのか?ずっと共にいるようだが」

それに先日も、と言いかけて口を噤んだ。

「あぁ、あの二人は仲が良いぞ。よく戦いの場でも支え合っている」



――嗚呼やはり。



往壓はあれが自分の見間違いでなかったことを確信し、密かに溜息を吐いた。

先の山子との戦いで裾を翻し大筒を打っ放していた元閥と――それを支えていたアビ。

「元閥はな」

ふいに逆から声を掛けられ、往壓はほぼ反射的にそちらを見た。汁のおかわりを注いでいた放三郎はちらりと元閥とアビを見やり、また視線を椀へ戻した。

「普段はここから出ないから足腰が弱い。短筒や少し大きいものならば簡単に扱えるが――いかんせんあの大筒だ。衝撃で後ろにふっ飛ばされる。
だからああやってアビが支えているんだ」

その言葉にようやく合点がいった。つまりあれは仲間を気遣う姿であって――。

「あぁ、何か誤解をしているようだから言っておくが――あの二人は良い仲だ」
「は!?」
「なんだ気付いていなかったのか?」
「いや、だって良い仲って…男だろ!?」
「前にアビが体調を崩し、その状況で妖夷退治に向かってな…大筒打っ放した元閥を私が支えていたのだが…まぁ、なんというか…
…烈火の如く激怒された」

頭を掻き淡々と話をする放三郎に、往壓は血の気が退いて行くのがよく分かった。
思わずアビを見やり、往壓はまるで空気を飲み込んでいるかのように何度も喉を上下させた。

「烈火って…あれが?」
「別に怒鳴ったわけではないが…目がな。あまりに怖かった」

今でも身の毛がよだつ、と腕を擦った放三郎に、往壓は今度こそ全ての血が退いたと確信した。





* * *





「ふふっ、何の話をしてるんだろうねぇ」

楽しそうに談笑している(ように見える)三人に目を向け、元閥はクスクスと笑った。その一方会話の内容が全て聞こえているアビには面白くない。
ギュッと眉根を寄せ、三人…特に往壓と放三郎を睨んでいたアビの頬に、ふいに元閥の手が触れた。
「なに鬼面なんぞ浮かべてるんだい、旦那」
「…せめてその格好の時くらいその言葉遣いはやめてくれ」

そうか?と呟いた元閥の腰に手を回し、アビは元閥を己の方に引き寄せた。一瞬目を見開きアビを見つめたが、またすぐにいつもの不敵な笑みに変わる。

「おや旦那。どうしたんだい?随分と積極的だねぇ?」
「やめろっての」

口ではそう言いながらも完全には嗜める気のないアビは、猫のように己に擦り寄って来る元閥を抱き締め、その首筋に顔を埋めた。

「くすぐったい」
「じっとしてろ」

軽い音を立て唇を離すと、そこには鮮やかな朱が浮かび上がっていた。元閥は多少困ったように目を細め、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「アビ」
「ん? …っ!!?」
「お返しだ」

装束の合わせギリギリに唇を落とされ、アビは思わず腕の中の元閥をじっと見た。にやりと不敵な笑みを浮かべ再度擦り寄って来た元閥を愛しく思いながら――



――――――アビは溜息を吐いた。






* * *






「……勘弁してくれよ……」

そんな二人の光景を否が応にも見せられ、往壓がアビ以上に大きな溜息を吐いたのは―――言うまでも無い。