本当はね、こんな約束したくなかったのだよ。
殺すためだけに愛すなんて、したくなかった。
自分の子を殺したい親などいると思っているのかい?

――あぁ、そうだね。ここにいたね。

また君に会える。
また君を愛せる。
また君と――…。

そんな誘惑に負けたのは、他ならぬ私だよ。
でもね、私の愛しい息子よ。

――どうか、今度は。






【この美しく醜い世界を】






「くろたか」

もう何度目かも分からないくらいに、刻が巡った。ただ薄ぼんやりとだがもうすぐ三桁になるのは分かる気がした。

「ねぇくろたか。なんで、こんなに白いの?」
「…雪が降っているからだよ」

すまないね『玄冬』。
私は君との約束を違えたよ。


『これからずっと、俺を殺し続けてくれ』


出来るわけがなかった。
でも、負けてしまった。また君に会える、また君を愛せるのだと思えば…誘惑に、負けたのだよ。



昔何代目かの玄冬に問うたことがあった。



世界が君を滅ぼす。
ならば君には世界を滅ぼす権利がある。
なのに。

何故?



俺は、世界が好きだ。
たった一人のために滅ぼすわけにはいかない。
だから。

俺が守れるなら、守りたい。



「なんで雪が降るの?」
「私がね、大切な人との大切な約束を違えたからだよ」

もう耐えられなかった。
こんな醜い世界に君を奪われるのも。
大切な君を奪われるのも。
―――君を突き放すことも。

「…玄冬は、雪が嫌いかい?」
「大好きだ!」

あぁ、そうやって変わらぬ笑みを見せてくれるから。
私は、ついに約束を違えてしまった。

玄冬の居場所を隠し、対の鳥や救世主を…この手にかけ。
そうして守り抜いた私の愛しい子よ。どうか傍にいておくれ。

「ねぇくろたか。これからどこに行くの?」
「ん?そうだね…どこがいいかな?」
「くろたかと一緒ならどこでもいい」

そう言って繋いだ手は、とても温かくて。

「そうだね、じゃあ春を探しに行こうか」

そんなもの、もう存在しないけど。君とならば見つけられるから。きっと見つけられるから。

「うん!」




だから、どうか今度こそ。








end