食事のおじかん。
「んっ…ぁ…」
気持ち悪い。
楽しそうに、まるで犬のように白磁の肌を伝う赤い舌。
逃れられぬようご丁寧に束ねられた腕は、抵抗する術を持ち合わせて居ない。
元閥は止めどなく襲い迫って来る快感を逃そうと、ジリジリと膝を擦り合わせた。
だがそれすらも許さぬように膝を割って巨躯を滑らせて来たアビは、茶色い液体で染まった指で胸の飾りをくすぐる。
声を押し殺そうと唇に押し当てた指を、そっと舐めた。
「っぅ…!ア、アビ…やっ」
「美味いな、元閥」
悪びれもせずそう言ったアビの傍らには、溶けた茶色い液体。ちょこれいと…と言うらしい。
元閥が色街で町人体の男に貰ったらしい。なんでも出島で異人から受け渡されたそうで――。
上機嫌に前島聖天に戻ってきた元閥は、その液体状のちょこれいとを持ってアビの部屋を訪れた。
一口舐め、それがとても上手かったらしい。
いつもならば黙って一人で食べてしまうのだが、せっかくだ。
たまにはアビと一緒に食べようか。
そして楽しそうな顔で「食べよう」と言ったのだ。
だから――"食べている"ということだ。
「ぁ、ち、違…!」
「食わせてくれるんだろう」
尚も反抗しようとした唇を、無理矢理重ねた。
甘いような苦いような、そんな独特の味が広がり、ただ夢中で舌を絡める。
息苦しくなった所で少し隙間を開き、空気を取り込んだ。
どれくらい貪っていたのか分からないほど、元閥の唇は赤く熟れている。
互いの唾液で塗れたそれを一舐めしてやれば、抵抗していた腕の力が一気に抜けた。
「食わせてくれ。――ちょこれいととやらも、貴方も」
白磁に、ちょこれいとが垂れた。
その冷たさに身震いし、元閥は止めどない嬌声を零す。
「両方、残さず食うから」
これが現代でいう『バレンタイン』ということを知るのは、まだまだ先のこと。
【終】
----------------------------------
フリー期間は終了しています。